今回ご紹介するのは「トラッキング現象」です。聞き慣れない言葉かもしれませんが、じつはこれ、住宅で起こる電気火災の代表的な原因のひとつ。しかも、こわいことに、家電を使っていなくても、留守中でも起こりうるのです。今回は、このトラッキング現象がどうやって起きるのか、その仕組みと、今日からできる予防法を、わかりやすく解説します。正しく知って、しっかり防ぎましょう。
トラッキング現象とは?
トラッキング現象とは、コンセントに差したプラグのすき間にたまったホコリが湿気を吸い、そこで火花が発生して、最終的に発火してしまう現象のことです。順を追って見てみましょう。まず、プラグとコンセントのわずかなすき間に、ホコリが少しずつたまっていきます。次に、そのホコリが空気中の湿気(水分)を吸い込みます。ホコリと水分がそろうと、本来は電気を通さないはずのすき間に、わずかな電気が流れるようになるのです。
すると、プラグの2本の刃の間で、小さな火花(放電)がくり返し起こります。この火花によって、まわりのプラスチックが少しずつ焦げて炭になり、電気の通り道(トラック)ができていきます。これがだんだん広がり、やがて大きな火花となって発火——これがトラッキング現象です。日本語では「トラッキング火災」とも呼ばれ、製品評価技術基盤機構(NITE)や消防機関も、くり返し注意を呼びかけています。

トラッキング現象のいちばんこわいところは、「その家電を使っていなくても起きる」という点です。プラグをコンセントに差しているだけで、じわじわと進行します。つまり、スイッチを切っていても、外出していても、寝ている間でも、出火する可能性があるのです。「使っていないから大丈夫」という油断が、大きな事故につながりかねません。だからこそ、日ごろの予防が何より大切になります。
もうひとつやっかいなのが、トラッキングは、数か月から数年という長い時間をかけて、静かに進行することです。初期のうちは、見た目にも大きな変化がなく、においもしません。そのため、住んでいる人はなかなか気づけません。「気がついたときには、もう発火寸前だった」ということもありえます。だからこそ、「異変に気づいてから」ではなく、「ふだんから予防しておく」という姿勢が、トラッキング対策では特に重要になるのです。
どこで起きやすい?
トラッキング現象は、「長くプラグを差しっぱなしにしている」「ホコリがたまりやすい」「湿気が多い」——この3つの条件がそろう場所で起こりやすくなります。具体的には、冷蔵庫の裏、洗濯機のまわり、テレビやAV機器の裏側などです。これらは、いったんプラグを差したら、めったに抜きませんし、掃除機もかけにくいため、ホコリがたまりやすい場所の代表格です。
さらに、湿気の多い場所は要注意です。洗面所やキッチンなどの水回り、熱帯魚の水槽や観葉植物の近くは、水分が飛びやすく、トラッキングの引き金になりがちです。また、ソファやベッドなど、家具の陰にあるコンセントも、目が届かず放置されやすいので気をつけましょう。とくに、じめじめする梅雨の時期や、結露しやすい冬は、リスクが高まります。

今日からできる予防法
では、どうすれば防げるのでしょうか。うれしいことに、トラッキング現象は、日ごろのちょっとした習慣で、しっかり防ぐことができます。いちばん大切なのは、①定期的にプラグを抜いて、たまったホコリを乾いた布で拭き取ること。半年に一度でも、大掃除のタイミングでもかまいません。ホコリさえためなければ、トラッキングは起こりにくくなります。
そのほかの習慣も見ていきましょう。②長い間使わない家電のプラグは、抜いておく。③洗面所やキッチンなど、水回りのコンセントは、とくに気をつける。④ホコリがたまりにくい「トラッキング防止プラグ」や、差込口をふさぐ「安全カバー」を活用する。これらは、ホームセンターなどでかんたんに手に入ります。特に、抜き差ししにくい場所や、水回りには、こうしたグッズを取り入れると安心です。
予防グッズには、いくつか種類があります。プラグの根元をカバーして、すき間にホコリが入るのを防ぐ「防塵(ぼうじん)キャップ」つきのプラグ。使っていない差込口をふさぐ「コンセントキャップ」。そして、差込口に自動でフタがされる「シャッター付きコンセント」などです。とくにシャッター付きのものは、ホコリの侵入を防ぐだけでなく、小さなお子さんのいたずら防止にもなり、一石二鳥。新築やリフォームの際に採用する家庭も増えています。
とはいえ、「こわいから、すべてのプラグを抜かなきゃ」と、神経質になる必要はありません。冷蔵庫のように、常に電源が必要な家電もありますし、毎回抜き差しするのは現実的ではありません。大切なのは、すき間にホコリと湿気をためないこと。ふだんはそのままでも、年に一度か二度、ホコリを拭き取る習慣さえあれば、トラッキングのリスクはぐっと下がります。無理なく続けられる範囲で、こまめにお手入れするのがいちばんです。

変色・焦げを見つけたら、すぐ相談を
そして5つめの、とても大切なポイント。もし、コンセントの差込口が黒っぽく変色していたり、焦げたようなあとがあったりしたら、それはトラッキングがすでに進行しているサインかもしれません。そのまま使い続けるのは危険です。すぐにその機器の使用をやめ、プラグを抜いて、電気工事店に点検を依頼してください。前回もお伝えしたとおり、コンセントの交換は、電気工事士の資格が必要な作業です。
私たちのような電気工事の専門店では、トラッキングによる劣化や焦げの点検はもちろん、コンセントの交換、そして必要に応じて配線全体の安全確認まで行います。「見えないところで進行している」のがトラッキングのこわさですから、少しでも気になるサインがあれば、放置せず、早めにご相談いただくのがいちばんです。早期の対処が、ご家庭を火災から守ります。
まとめ
トラッキング現象は、プラグのすき間にたまったホコリと湿気が引き起こす、こわい電気火災の原因です。しかも、家電を使っていなくても、留守中でも起こりうるのがおそろしいところ。でも、防ぐのはかんたんです。「定期的にホコリを拭く」「差しっぱなしを見直す」「水回りに気をつける」——この基本を守るだけで、リスクは大きく減らせます。そして、変色や焦げを見つけたら、すぐに専門家へ。