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ファミコンカセットに「ふっ」——あの儀式、実は逆効果だった?

2026.07.19
ゲームカセットに息を吹きかけるのはバツ、本当に直していたのは抜き差しだった——という図解

本日、当サイトはリニューアルしました。長年お世話になった借家から、自社で建てた新居への引っ越しです。カレンダーはちゃんと大安を選びました——電気工事の会社ですが、そういうところは昔ながらでいきたいのです。

そこで新居の一本目は、肩の力を抜いた特別編。昭和と平成の茶の間で、誰もが一度はやった「あの儀式」の話をさせてください。

テレビの映りが悪くなれば、側面をバンッと叩く。ファミコンのカセットが読み込まなければ、端子に向かって「ふっ」と息を吹きかけて、挿し直す。すると——不思議と直る。あの成功体験、覚えている方も多いのではないでしょうか。私たちの世代にとって「ふっ」は、家庭内で代々受け継がれる必殺の修理技術でした。

任天堂は「やめて」と言っていた

ところが、です。この必殺技、メーカー公認どころか、公式に「やらないで」と言われていたのをご存じでしょうか。

2010年9月、スーパーマリオ25周年の公式サイトで、任天堂自身がこの話題に触れています。いわく——カセットの接点部分に息を吹きかけると一時的に動作することはある。しかしその行為は結果的に接点の腐食を招くため、避けるべき。本来は専用のクリーニングセットを使ってほしい——という内容でした(当時の報道:ITmedia・2010年9月)。

さらに後年、任天堂サポートへの取材でも回答は同じでした。息に含まれる水分(唾液)が端子に付着し、サビや腐食の原因になる恐れがある。ホコリが入ったときは、息で吹くのではなく掃除機で吸い出すのが正解——とのこと。

つまり日本中の子ども(と、けっこうな数の大人)が信じていたあの儀式は、直すどころか、カセットの寿命をじわじわ縮めていた可能性が高いのです。

では、なぜ「直った」のか——真犯人は「抜き差し」

でも、待ってください。実際、あのあと動いたじゃないか——そう思いますよね。私も動いた記憶があります。あれは幻だったのでしょうか。

幻ではありません。ただし、直した犯人は「ふっ」ではなかった——というのが種明かしです。

カセットの読み込み不良の主な原因は、端子表面の酸化膜や汚れです。金属の表面は空気に触れているだけで少しずつ酸化し、目に見えない薄い膜をまといます。この膜が電気の通り道を邪魔すると、機械は「カセットが無い」と誤解してしまう。

ここで思い出してほしいのが、あの儀式の一連の動作です。カセットを抜いて、ふっと吹いて、挿し直す。——実はこの「抜いて挿す」の瞬間、本体側とカセット側の端子同士がこすれ合い、表面の酸化膜や汚れが一時的に削り取られます。接点の世界で「ワイピング(拭き取り)効果」と呼ばれる、れっきとした現象です。つまり、儀式のついでにやっていた抜き差しこそが、本当の修理作業だった——これが現在もっとも有力な説明です。息の水分が一瞬だけ通電を助けたのでは、という説もありますが、その水分こそが後のサビの原因。目先の一勝と引き換えに、長期戦で負けていたわけです。

電気屋の宿敵、「接触不良」という現象

テレビを叩くと直った件にも、ちゃんと種があります。ブラウン管時代のテレビは、内部のはんだ付けが経年でひび割れたり(はんだクラック)、部品の接点が酸化したりして、「つながっているようで、つながりきっていない」場所が生まれることがありました。そこへ振動を与えると、一瞬だけ接点が触れ直して映る——だから叩くと直った(ように見えた)のです。海外ではこれを冗談めかして「パーカッシブ・メンテナンス(打撃整備)」と呼ぶそうですが、もちろん正しい修理ではありません。当たりどころが悪ければ、とどめの一撃になります。

私たち電気屋の目から見ると、「ふっ」もテレビ叩きも、正体はすべて同じ——接触不良との戦いです。酸化膜、ホコリや油分、ネジや差し込みの緩み、はんだの割れ。電気の事故や不具合のかなりの部分は、断線のような派手な故障ではなく、この「触れているだけで、しっかりつながっていない」という地味な現象から生まれます。

そして面白いことに、この戦いは今も続いています。調子の悪いパソコンを再起動する。ルーターの電源を入れ直す。ケーブルを挿し直す。——道具は替わっても、人類は今日も同じ儀式をしているのです。ちなみに「ケーブルの挿し直し」は、例のワイピング効果が働くので、今も昔も理にかなった第一手。ご家庭のトラブル対応としては、まず挿し直し、それから再起動、が正しい順番です。

令和の「ふっ」案件も紹介しておきましょう。スマホの充電が最近うまくいかない、ケーブルを挿す角度によって充電できたりできなかったり——という症状、実は充電端子の穴にポケットの繊維クズやホコリが押し固められているケースがよくあります。ここでご先祖様ゆずりの「ふっ」をやりたくなりますが、思い出してください、息は水分です。精密端子にはやはり逆効果。電源を切ってから、乾いた柔らかいブラシやエアダスターで優しく取り除くのが正解です。つまようじや金属ピンでほじるのは、端子を傷つけるのでおすすめしません。

それから、押し入れから発掘した懐かしのカセットを今あそぶなら——正しい手当ても書いておきます。綿棒に無水エタノールを少量つけて端子を優しく拭き、完全に乾いてから挿す。これが定番のお手入れです。もちろん、息は吹きかけない(笑)。30年越しに、任天堂の言いつけを守ってあげてください。

笑い話で済まないこともある——コンセントの接触不良

ここまでは懐かしい笑い話ですが、最後に一つだけ、電気工事の会社として真面目な話をさせてください。ご家庭で本当に怖い接触不良は、ゲーム機ではなくコンセントまわりで起きます。

緩んだ差し込み口は接触面積が減り、同じ電気を流しても余計な熱が生まれます。また、挿しっぱなしのプラグとコンセントの隙間にホコリが積もり、そこに湿気が加わると、微小な放電から発火に至る「トラッキング現象」の恐れがあります。冷蔵庫やテレビの裏など、何年も抜いていないプラグは要注意です。

チェックはかんたんです。プラグを挿してもぐらぐらする・自然に抜けてくる差し込み口はないか。プラグや電源タップが妙に温かくなっていないか。挿しっぱなしのプラグにホコリが積もっていないか(掃除は必ずプラグを抜いてから、乾いた布で)。——この3つを見るだけでも、リスクはぐっと下がります。焦げ跡や火花、異常な熱を見つけたら、使用をやめて電気工事店へご相談ください。もちろん、当社でも点検を承っています。

「ふっ」は効いていませんでした。それでも、あの頃の私たちが機械と真剣に向き合っていたことは本当です。道具は替わり、儀式は再起動に替わりましたが、電気と接点との付き合いはこれからも続きます。新しくなった当サイトともども、末永くお付き合いいただければ嬉しいです。

※ファミリーコンピュータ(ファミコン)は任天堂株式会社の登録商標です。本記事は思い出話と電気の豆知識をお届けする読み物で、同社とは関係ありません。

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