
ビルの壁や床には、見えない「防火の仕切り」があります。防火区画——火災を一定の範囲に閉じ込めるための、建物の骨格です。そしてケーブルがこの仕切りを通り抜けるとき、必ず必要になるのが貫通処理。電気工事と建築防災が交差する、大切なテーマです。地味な工程ですが、建物の命運を左右します。
やさしい解説
防火区画は、建築基準法が定める「火を閉じ込める箱」の仕組みです。火災が起きても、区画が炎と煙をせき止めているあいだに避難し、消火する——建物の防災は、この時間稼ぎの上に設計されています。ところが配線やダクトのために壁へ穴を開ければ、そこが弱点になります。ケーブルの被覆は可燃物ですから、放置された貫通部は「炎の抜け道」そのものです。
だから貫通部は、耐火性能が確かめられた材料と工法——認定された耐火パテや専用の措置材——で、すき間なく埋め戻します。ケーブルを増設したら、その穴の処理までが工事。第40回で「見えなくなる場所に弱点を残さない」という話をしましたが、防火区画では「開けた穴を防火性能ごと元に戻す」ところまでが責任です。竣工写真に貫通部の処理を記録するのも、実務の定番になっています。隠れてしまう仕事ほど、記録が誠実さの証拠になります。

暮らし・現場との関わり
オフィスや店舗の入居工事で、LANや電源の増設をした経験のある方も多いはず。そのとき壁の上や天井裏で「ピンク色のパテ」や「もこもこした詰め物」を見かけたら、それが貫通処理の跡です。逆に、天井裏の区画壁にぽっかり開いたままの穴があれば、それは建物全体の防災力の穴。テナントの模様替えの積み重ねで、知らぬ間に増えがちな弱点です。天井裏の穴は、開けた人しか知りません。
建物の定期検査(第67回)では、この貫通部も点検の対象になります。指摘を受けてからの是正より、工事のたびにきちんと処理するほうがずっと安上がり。私たちも配線工事の見積りには、貫通処理の費用まで含めてご提案しています。安さの理由が「処理の省略」では、本末転倒だからです。防火の性能は、見えない場所の丁寧さでできています。
まとめ
防火区画の貫通処理は、火を閉じ込める建物の性能を守る仕事。穴を開けたら、防火性能ごと戻すのが鉄則です。次回は視野を広げて——建築基準法と電気設備の接点を整理します。
※本記事は2026年7月時点の制度をもとに、内容をやさしく要約したものです。個別の判断は一次情報や専門家にご確認ください。