IHクッキングヒーターは、火を使わないのに、鍋のお湯がぐらぐらと沸きます。よく考えると、これはとても不思議なことですよね。炎も、赤く光る熱源も見当たらないのに、どうして鍋は熱くなるのでしょう。実はここには、「磁力」を使った、とても巧妙な仕組みが隠れています。今回は、IHが火なしで加熱できる理由と、鍋選びのポイント、そして上手な使い方までを、やさしく解説します。
IHは「磁力」で鍋を発熱させる
IHとは「インダクション・ヒーティング(電磁誘導加熱)」の略です。その名のとおり、電磁誘導という現象を使って加熱します。天板のすぐ下には、うずまき状に巻かれた「コイル」が入っていて、ここに電気を流すと、目に見えない磁力(磁界)が発生します。
この磁力は、電気の流れに合わせて、1秒間に何万回という猛烈な速さで向きを変えています。すると、その上に置かれた鍋の底に、磁力の影響で「うず電流」と呼ばれる電気の渦が生まれます。ポイントは、この電流が鍋そのものの中に流れる、という点。ここに、火が出ない加熱の秘密があるのです。

火がないのに、なぜ熱くなる?
鍋の底に生まれたうず電流は、鍋の金属の中を流れようとします。ところが、金属にはわずかながら電気の通りにくさ(抵抗)があります。電流が抵抗を押しのけて流れるとき、そこに熱が生まれるのです。ドライヤーや電気ストーブが熱くなるのと、同じ原理ですね。
熱効率の高さも、IHの見逃せない長所です。ガスコンロは、炎の熱の多くが鍋のまわりの空気へ逃げてしまいますが、IHは鍋そのものを発熱させるため、エネルギーのムダがとても少なくてすみます。同じ量のお湯を沸かすなら、IHのほうが短い時間で沸くことが多いのです。使うエネルギーがそのまま鍋に伝わる、効率のよい方式なのですね。
つまりIHは、熱源で鍋を外から温めているのではなく、「鍋自身に電流を流して、鍋を発熱させている」のです。だから炎はいりません。熱くなるのは鍋であって、天板そのものが燃えているわけではありません(ただし、鍋の熱が伝わって天板も熱くなります)。この「鍋を直接発熱させる」という発想こそが、IH最大の特徴なのです。
「じゃあ、天板の上に手を置いたら、手も発熱するの?」と心配になるかもしれませんが、大丈夫です。うず電流が生まれて発熱するのは、磁力によく反応する金属だけ。人の体はそうした金属ではないため、発熱しません。さらにIHは、置かれた鍋を感知して初めて働くように作られていて、鍋がのっていないと加熱が始まらない安全設計になっています。空だきの心配が少ないのも、うれしいポイントです。
だから「鍋を選ぶ」必要がある
鍋そのものを発熱させる仕組みだからこそ、IHには「使える鍋」と「使えない鍋」があります。うず電流が流れて効率よく発熱するのは、鉄やステンレスなど、磁力によく反応する金属(磁性体)の鍋です。これらはIHととても相性がよく、しっかり発熱します。
反対に、アルミや銅の鍋は、磁力に反応しにくく、電気も流れやすすぎるため、通常のIHではうまく発熱しません。土鍋やガラス、陶器の器も、そもそも電気を通さないので加熱できません。「うちの鍋、IHで使えるかな?」と迷ったときの、簡単な見分け方があります。

磁石がくっつくかで見分ける
いちばん手軽な見分け方は、「鍋の底に磁石を当ててみる」ことです。磁石がピタッとくっつけば、その鍋はIHで使える可能性が高いといえます。くっつかなければ、IHでは発熱しにくい素材、というわけです。買い物のときは、「IH対応」の表示を確認するのが確実です。
なお、最近は「オールメタル対応」といって、アルミや銅の鍋も使える高機能なIHもあります。また、IH対応と書かれた土鍋なども売られています。とはいえ基本は「磁石がつく鉄・ステンレス」。鍋の底が平らなものを選ぶと、コイルとの距離が近くなり、より効率よく加熱できます。
IHのうれしいメリット
IHの最大のメリットは、なんといっても「火が出ない安全性」です。炎がないので、袖口への引火や、うっかりの立ち消えの心配がありません。小さなお子さんや高齢のご家族がいるご家庭でも、安心して使いやすいのが魅力です。消し忘れても自動で切れる機能を備えた製品も多くあります。
さらに、天板が平らなので、こぼれても、さっとふくだけで掃除がラク。鍋を直接あたためるため熱効率が高く、お湯が早く沸くのも助かります。炎で周囲の空気を熱しないので、夏場でも比較的キッチンが暑くなりにくい、という利点もあります。いいことがたくさんあるのですね。
加えて、火加減ならぬ「電力の調整」が、ボタンひとつで細かくできるのも便利な点です。温度を一定に保つ機能やタイマー、湯沸かしの自動停止など、うれしい機能が充実しています。揚げ物のときに油の温度を自動でキープしてくれる機種もあり、料理の失敗をぐっと減らしてくれます。毎日の調理が、少しラクになりますね。
知っておきたい注意点
便利なIHですが、注意点もあります。まず、これまで見てきたように「対応した鍋」が必要です。引っ越しやコンロの入れ替えでIHにする場合は、手持ちの鍋が使えるか、事前に確認しておきましょう。また、電気で動くため、停電すると使えません。災害時にそなえて、カセットコンロを用意しておくと安心です。
もうひとつ、意外と見落としがちなのが「余熱」です。IHの天板自体は発熱しませんが、加熱後の鍋の熱が伝わって、天板が熱くなっていることがあります。加熱を止めた直後は、うっかり触れてやけどをしないよう注意しましょう。多くの機種では、天板が熱いあいだ、ランプなどで知らせてくれます。
また、IHは磁力を使うため、心臓ペースメーカーなどを使用している方は、念のため機器に近づきすぎないなどの配慮が必要とされる場合があります。気になる方は、かかりつけの医師や機器メーカーに確認しておくと安心です。正しく知って使えば、IHはとても頼れる調理器具です。

ガスコンロとの、どっちがいい?
「結局、IHとガス、どっちがいいの?」とよく聞かれます。これは、どちらが優れているという話ではなく、好みや暮らし方によります。安全性や掃除のしやすさ、熱効率を重視するならIH。鍋を振る料理や、炎で直接あぶる調理、停電時の強さを重視するならガス、という具合です。それぞれの長所を知って、自分の暮らしに合うほうを選ぶとよいでしょう。
なお、IHを設置するには、200Vの専用配線が必要になることが多く、取り付けには電気工事をともないます。新築やリフォームのタイミングで検討する方が多いのは、このためです。ガスからIHへ替えるときは、こうした工事の有無や費用も含めて考えるとよいでしょう。判断に迷ったら、電気工事店やガス会社に相談してみるのも、失敗しないための一つの手です。
まとめ
IHクッキングヒーターが火なしで加熱できるのは、磁力によって鍋の底に「うず電流」を生み、鍋そのものを発熱させているからでした。だからこそ、磁石がくっつく鉄やステンレスの鍋が必要で、火が出ない安全性や高い熱効率といったメリットが生まれます。仕組みを知れば、鍋選びも使い方も、もう迷いませんね。