温故知新!アルミ導体ケーブル

ここ数年で様々な物の価格が大きく変動し、数年前に比べて少しの変化とは容認できないほどに様変わりしてしまいました。

それは私たちのに日常生活でも肌で感じるところであります。

そしてそれは建築・電気の業界でも同じ事です。各メーカーも材料の価格高騰に対し最大限の努力をされるも価格変更を余儀なくされているのが実情です。

ここ数年で電気部材も1.5~2倍に高騰した物も少なくはありません。特に電線ケーブル等は原材料たる銅単価で如実に価格変動が起こります。 また、価格が高騰するだけならまだ良いのですがここ1年ほど国内においては災害復興や世界情勢の影響等で電線ケーブルが入手できないという異例の事態にまで発展しました。

しかし、電気業界もその対応策として国外からの輸入や別素材での製造など様々な手段で解決しようと動いておりました。

そんな対策のなかで今回、別素材を用いた電線ケーブル「アルミ導体ケーブル」についてお話ししようと思います。

 

 

アルミ導体ケーブルとは?

アルミ導体ケーブルとは文字通り、一般駅な軟銅線の代わりに硬アルミ線を導体として使用したケーブルを指します。我が国において1910年に送電線として約75mm²のHAL線(硬アルミより線)を英国より輸入したことが最初になります。

その後、1920年代からACSR(硬心アルミより線)が送電線として広く使用されるようになりました。 しかし、一般的な配電分野での採用は進みませんでした。

理由としては接続技術の確立が出来ていなかったことと時代に翻弄される運命にあります。

 

 

 

数奇な運命…歴史に翻弄される素材アルミニウム

さて、前項において配電分野への採用が進まなかった理由の一つとして「時代に翻弄される運命」と表現しましたが、それはどういう意味なのか。それはアルミ線が必要とされるタイミングがいつも決まって銅情勢は逼迫したときだからです。

1910年に採用され、1920年代には使用するようになりました。

では、この直近で銅情勢の逼迫する出来事とは何が考えられるでしょうか。

 

答えは「太平洋戦争」です。

 

大戦初期の1941年から銅は軍需優先の戦略物資として国内において極度に逼迫しました。 その際に注目されたのが代用としてのアルミ線でした。

しかし、1943年頃から航空機や船舶増産にアルミの原料たるボーキサイトもその対象となり、アルミ線の製造は中止となりました。

その後も朝鮮戦争、スエズ動乱、ベトナム戦争と世界に影を落とす出来事があるたびに銅の需要が増え、アルミ線が注目を集めました。

しかし、「接続の問題」を解決できず、銅の下落とともに立ち消えてきました。 ですが1965年に電気設備技術基準で電気用品安全法の対象外絶縁電線、低圧ケーブル、高圧ケーブルにアルミニウムを導体とした物が認められ、アメリカのBurndy社によりアルミ導体の接続技術も確立されました。

これにより、いよいよアルミ線の普及が現実味を帯びてきたと思われたその時、1973年のオイルショックにより電力価格高騰でアルミニウムの精錬に大きく影響し、採算性を失ってしまいました。

 

 

またも注目を集める「アルミ線」

そして近年、再びアルミ線が注目されることとなります。

当然それは銅情勢が逼迫しつつあるからといえまず。更に今回は過去の事例のような世界の情勢にプラスして増え続ける銅需要も起因しています。

当ブログにおいても何度かご紹介させて頂いた電気自動車(EV車)ですが今後ますます需要が増えてくると言われております。しかしこのEV車、一般的な内燃機関の自動車に比べ約4倍の銅を必要とします。

さらに新興国における急速な発展に伴う需要増なども含め、2050年頃には世界の銅需要は2020年の約2倍という試算の発表されております。 現在の採掘ペースですと銅需要はそれに追いつかず、可採年数も現時点で約40年とされております。

将来の枯渇なども危惧されるなか、アルミの原料ボーキサイトは埋蔵量から可採年数は約80~109年と少なくとも今世紀中は枯渇する事が無いそうです。

そうした意味でも今後の本格的なアルミ線の導入と普及が期待されます。

 

 

アルミ導体ケーブルのメリット・デメリット

いよいよアルミ線の普及にあと一歩と言うところまで来ました。 ここで現時点でのアルミ導体ケーブルのメリットやデメリットをご紹介していきたいと思います。

・メリット

①軽い

アルミニウムにおける工業製品の利点としても良く言われる部分です。 素材がアルミニウムと言うことは当然ながら銅よりも軽いです。 一般的な電線ケーブルより約30~50%軽量となります。 これは施工をする人間の立場からしても大きなメリットです。

②安定価格

他の素材と同様にアルミニウムも価格は緩やかに上昇してはいます。しかし、銅地金の価格の乱高下と比べとても安定しています。

③作業性向上

アルミ導体ケーブルは素材もさることながら比較的新しいケーブルである為、各製造メーカーの努力もあり、被覆を含め非常に作業性が高い工夫が施されております。

・デメリット

①導電率

アルミニウムの導電率は銅に比べて約60%と言われております。 その為、既存の銅導体ケーブルの1~2サイズ大きい物を選ぶ必要があります。

②融点

アルミニウムの融点は約660℃であり銅の融点1083℃よりも低いです。 その為、耐熱840℃とする耐火ケーブル等の採用には向いていません。

③接続方法

先述のとおり、現在のアルミ線の接続は米Burndy社の規格の接続方法となり、専用の端子や圧着ダイス、方法があるため既存の接続方法とは異なります。 それ専用の工具や接続方法の講習などの受講が必要となります。

 

 

アルミ線採用が生んだ意外な効果

これはアルミ線を採用したことで起きた事ですが盗難被害の防止につながるケースが起きたのです。

ここまでで銅という物はその時代時代で価値を高める物質である事はご理解頂けたと思います。 そして今まさにその高騰の機にあります。

しかしそれと同時に経済的に落ち込んでいるときでもあります。 そのような情勢にありますと「貧すれば鈍する」の言葉通り、盗難の被害も残念ながら増えてお

ります。

特に最近では太陽光発電設備がその被害のターゲットとなることが多いです。 筆者自身、太陽光における盗難被害を目の当たりにしております。

しかし、ケーブルをアルミ線を採用した場合はどうだろうか。

窃盗犯はハイリスクハイリターンで電線ケーブルの窃盗を行う。それは当然銅が高いからだ。

だがしかし盗むケーブルが高くないアルミの素材なら危険を冒してまで盗むだろうか。

 

答えはノーです。

 

どうしても銅導体ケーブルを使用しないといけないならまだしもその必要が無いならば盗難

のリスクの少ないアルミ線を採用するのもひとつのリスクヘッジであるように思います。

ただ問題点で言うならばアルミ導体ケーブルの認知度が低く、窃盗犯側にそのことを周知してい

なけ

ればなりません。 そのためアルミ導体ケーブル採用の趣致ポスターなどの工夫で未然に盗難を防ぐ取り組みも行われております。

 

 

 

 

 

まとめ

いかがでしたでしょうか。

今回はアルミ導体ケーブルについてお話しさせて頂きました。 今後、少しずつでも需要が増えていき一般的な普及へと繋がることを願っております。 特に太陽光発電などをはじめとしたケーブルの盗難の被害が減少する対策として普及することは我々電設業界の願いでもあります。 これからの電線の盗難対策、または盗難後の再発防止策としてアルミ電線の採用をご検討されるのもいかがでしょうか。